「プレシャス」
2009年サンダンス映画祭グランプリ、第82回アカデミー賞の助演女優賞と脚色賞を受賞という華々しい受賞暦を誇るこの作品。映画自体はそれに反し、そんな輝かしい光を浴びない人々のお話です。
1987年のニューヨーク・ハーレム。母親からの精神的・肉体的な虐待を受けながら育った、とんでもなく太った少女プレシャス。読み書きもできないプレシャスは、ただただ絶望の日々と、それを忘れ去るための極度の妄想で毎日をやり過ごす。しかし、フリースクールで出会ったレイン先生に読み書きを習い、自分のように社会に虐げられた友達に囲まれ、プレシャスは地獄のようだった人生に希望を見出していく。
虐待、妊娠、退学、出産と、まるでケータイ小説のような展開だが、この作品を見ると「そんなの嘘だろう」とはならない。悲しい納得がつく。貧困には実にさまざまな種類があると思うが、プレシャスの抱える貧困は、とても重い。まず、貧乏だと痩せるとは限らない。明白な事例として、貧困は肥満を生む。先進国においてはこれ常識。マクドナルドのような安価なジャンクフードは、貧困層の主食となっている。お金持ちは、オーガニックだマクロビオティックだとなるだろうけど、貧困層はそうはなれない。よって、プレシャスの肥満は貧困からくるものだと思う。物理的、そして精神的な貧困から。
プレシャスの陰湿な母親を演じているモニークが、助演女優賞にふさわしい怪演で観客にも迫ってくる。あまりにも希望のない生活のせいで、どんどん狂気に取り憑かれていく彼女は、現代社会の貧困が生んだモンスターであり、ひとりの哀れな中年女性だ。プレシャスを追い込むその形相、まさしくオスカーに値する。だが、彼女を一概に責められない社会が確実にそこに存在する。実際、目を逸らしたくなる現状ばかりなのだ。だけど、それに対して怒りだろうが悲しみだろうが笑いだろうが、大きい声で吐き出す瞬間が来たときにその現実ときちんと対峙できたら、それが人生の転機になりえると思えた。
そしてマライア・キャリー、レニー・クラビッツ、ポーラ・パットンらの“素”の好演も見逃せない。もちろん主演のガボリー・シディベも、プレシャスの抱える悲しみをこれでもかと体現している。役者だけでも見る価値あり。
経済大国アメリカには、さまざまな貧困がある。そしてそれを、経済政策だけで打ち負かすことはできないのだ。
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