「川の底からこんにちは」
今、日本映画界でノリに乗っている若手といったら、この石井裕也監督ではなかろうか。新人監督の登竜門「ぴあフィルムフェスティバル」にて「剥き出しにっぽん」でグランプリを受賞した彼が、そのスカラシップで撮りあげた痛快人生賛歌。主演はこれまたノリに乗っている満島ひかり。
「私なんて所詮、中の下ですから」が口癖の無気力なOL佐和子。目標や理想もなくダラダラと生きる彼女は、父親が病に倒れたことで故郷の田舎町に帰ることになる。傾きまくってる実家のしじみ工場で、強烈な中年女性にいびられながら、頼りない彼氏(?)とその連れ子を支え、力強く人生の再出発をはかる佐和子の姿をコミカルに描く。
鑑賞後、これは上質なコントのような映画だなと思った。大いに笑えるし、だからといって中身がないわけではない。人生ってシリアスになろうとも、どうしてもコントのようにおかしくなってしまい、噴出すのを我慢できないことがある。そういうことを、この映画はヤっている。田舎特有の“あからさまさ”が、度を通り越して爽快。また、登場人物たちの会話が面白くてたまらない。
そして、主人公・佐和子。彼女の人生に対しての期待の低さ、自分自身への期待の低さ、これはとても現代特有なものだと思う。私は監督と同世代なのだが、我々80年代に生まれたジェネレーションを形容するのに、”嫌消費”世代という言葉があるらしい。マーケティング用語らしいが、これはすごく的を得ている気がする。主人公は、欲しがらないのである。バブル世代のように、いい車、いい家と、富や名声を尽くして何かを欲するという傾向があまりない。だけど、私は佐和子の決断が好きである。「大した人間じゃないから頑張る」と言うと自分を卑下してるかのように聞こえるが、実際、我々のほとんどが大した人間じゃないのである。そこをきちんと自認したから、佐和子は強くなる。巷じゃ「ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン」とかいう歌詞の歌が人々を励ましているようだが、「努力しなくても大丈夫というような誤解を与えるんじゃないか」「そういう甘えどうなの?」と私は時々思う。そんなナンバーワンだかオンリーワンだかを、真っ向から否定してくれる、佐和子のみすぼらしさと脆さにグっときた。
劇中に出てくる社歌の替え歌も、おかしくて耳に残った。嫌なことがあったとき、これを歌うのがマイブームです。
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